雑誌「クルーズ」に好評連載中の「世界の船旅」CRUISE誌上放映。
2015年11月27日発売の2016年1月号に掲載された内容をご紹介します。
2015飛鳥Ⅱの世界一周⓵~⓹
飛鳥Ⅱの代名詞、世界一周。誰もが憧れる夢の船旅に密着し、スエズ、パナマの2大運河など船でしか味わえない絶景や、エネルギッシュな異国文化に触れる104日間の壮大な船旅を5回に分けて月に1度ずつ紹介していきます。
「仕事の合間に気になるのは……」
3カ月以上にわたる「飛鳥Ⅱ」の世界一周クルーズは、途中で別のディレクターが合流し、数日間取材を手伝ってくれます。今回は地中海区間で一人応援に来てもらい、ヨーロッパ最後の寄港地、ポルトガルのポンタデルガダまで共に取材しました。ポンタデルガダは同船初寄港。番組としても一つの山場になりそうなので、少し過密な撮影スケジュールを組みました。
順調にロケが進行する一方で、応援に来てくれたディレクターが徐々に落ち着かなくなっていきました。街並みを撮影しながらお店の中をのぞき込んだり、品物を手に取ったりしています。どうやらポルトガルは初めてらしく、お土産を探しているようでした。「荷物が増えるから後で買ってくださいね」と言うと、「見ているだけだよ」と照れながら仕事に戻りました。
ようやく撮影が終わり港に戻ると、彼は「ちょっと行ってくる」と港の土産物店にいそいそと出かけていきました。ところが、しばらくしてそのディレクターが暗い表情で帰ってきました。「どの品も街中より2ドルくらい高いんだよ」と、2ドルを惜しんで何も買わなかったらしいのです。「先に買っておけばよかった」と恨めしそうにこちらを見つめるので、「お土産をケチると奥さんに一生言われますよ」と返すと、「もう一度行ってくる」と大慌てで土産物店に戻っていきました。その後ろ姿がとてもかわいらしく思えました。
カリブの海を渡るお楽しみ満載の豪華客船(仮)
個性的な外観と、大人も子供も楽しめる豊富なアクティビティーが評判の客船。青く広がるカリブ海を、絶品グルメと心癒やす絶景を求めてめぐります。にぎやかなカリビアン・ミュージックに彩られた軽快な人気クルーズを紹介します。
「カリブの空を知り尽くした男」
期待していた船上イベントが中止になると、船全体が少し残念な雰囲気になります。順調にカリブ海を航行していたこの船でも、そんな危機がありました。
ある日の午後、乗客たちはデッキをぬらす雨を恨めしそうに眺めていました。クルーズの最後を飾るデッキパーティーの開始予定時刻まであと30分。「もう無理かな」と乗客の誰かがつぶやいたころ、一人のクルーが雨の様子を確認するためデッキに出ていきました。空をちらっと見て、足早に戻ってきたクルーの表情に変化はなく、乗客たちもあきらめ顔でした。
その時、ある少女がクルーに尋ねました。「パーティーはどうなるの?」。すると、クルーは満面の笑みで答えたのです。「大丈夫。15分後に雨は上がるから、ちゃんとやるよ」。その場にいた乗客たちは誰も信じていませんでした。「こんな大雨、15 分でやむはずないよ」。無責任な発言だという声も聞こえてきます。ところが、15分ほどたったころ、それまでの雨がうそのようにやみ、空には晴れ間が見えてきたのでした。
クルーが雨上がりのデッキを拭き上げ、予定どおりに始まったパーティーは最高に盛り上がり、乗客たちは歓声を上げて喜びました。その後、そのクルーに話を聞くと「カリブの海は泣き虫だけどすぐに笑顔になる、わがままな女の子みたいなものさ」と答えてくれました。軽いようで重い一言が心に残りました。