雑誌「クルーズ」に好評連載中の「世界の船旅」CRUISE誌上放映。
2013年7月29日発売の2013年09月号に掲載された内容をご紹介します。
「○○好みの顔」
世界中をめぐっていると、他の国のカメラクルーに取材されることがあります。
バルセロナでは、陽気なカメラクルーが話しかけてきました。「どこから来たのか?」など、簡単な英語の質問に答え、最後に「これを持って、カメラを向いて」と紙を渡されました。そこにはスペイン語と日本語で「スリに注意」と書かれてあったのです。
これには本当に驚きました。実はその少し前に別の国で本当にスリに遭って、財布を取られていたのです。「1000キロ以上も離れた場所なのに、なぜ知っているの?」。戸惑っているうちに、カメラクルーは「サンキュー」と言い残し、去っていきました。
日本に帰ってデスクに話すと「きっとスリ好みの狙われやすい顔なんだよ」と一言。大笑いするデスクに言い返す言葉も見つからず、洗面所の鏡で、しばし自分の顔を見つめていました。
「揺れても、揺れなくても」
取材中、乗客から意見を聞かれたり、情報を求められることがたびたびあります。ウシュアイアで知り合った若いバックパッカーたちも、南極について聞いてきました。「ドレーク海峡は揺れるよ」と少し脅かすと、逆に「楽しそう」「期待しちゃう」と面白がっていました。ところが、この船は今までの船より大きく、しかも今回は海峡も穏やかだったため、ほとんど揺れずに南氷洋に入りました。
大揺れを期待していたバックパッカーたちは「静か過ぎてつまらない」と不満げ。なんだか嘘をついたようになってしまいました。「俺のせいではないよ・・・・・・」と思いながら氷の海を見つめていると、バックパッカーの一人が近づいてきて、「揺れなかったけど、この景色は最高。本当にありがとう」と言うのです。「それも俺のおかげではないよ・・・・・・」と思いながら、なぜか涙がこぼれました。
「思わぬところに」
テレビでは、番組を提供するスポンサーと競合する商品やロゴが映っていると、その映像は使えなくなります。特に今回は日本をめぐるクルーズ。博多どんたくでは、パレードの法被や会場のパネルなど、ロゴのあるものに注意してロケを行いました。
取材後の映像もチェックし、大丈夫だと安心しきった最終試写の席でスタッフの一人が大きな声を上げました。「ビルに!」。パレードが登場する場面で、ビルの壁面に競合スポンサーの看板がしっかりと映っていたのです。にぎやかに行進するパレードに視線が集中するため、それまで誰も気付かなかったのです。
急いで別の映像に差し替えて事なきを得ましたが、先輩ディレクターが最後にひと言。「失敗を糧にするのはお前の力。失敗が癖にならないようにするのが俺たちの仕事だ」。思わず胸が熱くなりました。