雑誌「クルーズ」に好評連載中の「世界の船旅」CRUISE誌上放映。
2013年9月27日発売の2013年11月号に掲載された内容をご紹介します。
「最後の難関」
船旅の始まりを祝い、船長が主なクルーを紹介する歓迎レセプション。今回も出航日の夜、満員のシアターで行われました。
世界各地から乗客が集まるこの船では、船長のあいさつももちろん多言語。「まずは英語から」とそれぞれの言語を駆使してあいさつをしていきました。フランス語、スペイン語あたりまでは難なくこなしていたのですが、アラビア語では一語ずつたどたどしく読み上げ、額には玉のような汗。
観客たちもその奮闘ぶりを、笑いをこらえながらも温かい目で見つめていました。そして、「これが最後です」と船長が大きく息を吸ってから言ったのは「ニホンゴ……」。会場は慈愛を込めた笑いに満ちていきました。
帰国後、この件について「日本語って難しいんですね」とデスクに話すと、「あんたもせめて英語くらい勉強すれば」と一言。返す言葉もありませんでした。
「ラブスケ・フィエレ」
クルーズでは、日本であまり知られていない街に行くことも少なくありません。「ロストラル」で訪れたクロアチアのラブ島もそのひとつ。事前調査の時間もなく、歴史ある島で祭りがあるという程度の情報だけであまり期待はしていませんでした。直前まで上陸するか船内の撮影を優先するか迷いましたが、「でも、もしかすると……」という予感を感じて下船しました。
一歩旧市街に入ると、その町並みに驚かされました。中世の面影が残る荘厳な大聖堂や鐘楼。美しい映像を撮影できたのです。さらに日が暮れると中世そのままの衣装に身を包んだ人々が街を闊歩し始めました。600年以上続く「ラブスケ・フィエレ」(ラブ島フェスタ)という祭りの日だったのです。城跡で大砲や花火も披露され、「やはり、クルーズの魅力は未知との遭遇だな」と再認識しました。
「魔法のじゅうたん?」
インドのじゅうたん屋さんでは、店主が色とりどりのじゅうたんを見せてくれました。最高で100万円を超える商品もあり乗客たちも迷っていました。あきらめきれない店主は次々と勧める品を変え、最後は玄関マットくらいの小さなものになり「3000ドル(30万円)でどうだ?」と、こちらに迫ってきました。あまりの迫力に「さすがに半額じゃあ売らないだろうな」と思い、「1500なら買う」と言うと、店主はすかさず「オーケー」と包み始めました。言った手前断ることもできず、結局15万円で買うことに。乗客たちの驚嘆の声に応える笑顔が、少し引きつりました。
帰国後、会社で「不思議なパワーを感じたんです」と強がって話していると、先輩ディレクターから「空でも飛ぶのかよ」と言われ、さらに追い討ちをかけるようにデスクが「飛んだのは財布の中身よね」。