雑誌「クルーズ」に好評連載中の「世界の船旅」CRUISE誌上放映。
2013年11月27日発売の2014年1月号に掲載された内容をご紹介します。
「マッサージはいかが?」
サントリーニ島Wでは、切り立った断崖上にあるフィラの街を取材しました。この日は17時に船のスパとエステの取材を予定していたので、島の撮影は15時には終えるつもりでした。しかしテレビCMにも使われる白い街並みは魅力的で、気が付くと時間は16時過ぎ。急いで向かったロープウェー乗り場は長蛇の列。なんと1時間待ちです。とても間に合いません!
他には600段以上の階段があるのみ。もはや迷っている時間はありません。カメラと三脚を抱え階段を降り始めました。100段までは軽かったのですが、300段を越えるころには足がガクガク、400段目ではロバに乗った観光客に「ファイトォ」と声をかけられても愛想笑いも返せない状態に。
ようやく船に戻りスパにたどり着くと、疲れ果てた顔を見たセラピストが心配そうに「あなたから、やりましょうか?」。
「帰省?」
アイスランド、レイキャビクWの港で乗船手続きを待っていると、隣にいたヨーロッパ系の外国人に「帰省かい?」と訪ねられました。何か言い間違えたのかな?と思い、その時は笑顔で返したのですが、その後グリーンランド沿岸を航行している船上でも別の人から「良い故郷だね」と話しかけられて、ようやくわかりました。
グリーンランドは総人口の8割を、先住民族のカラーリットW(※)が占めています。彼らはどこか日本人に似ているため、カラーリットが地元を旅しているのだと勘違いされていたのです。
帰国後すぐ、事のてん末をデスクに話すと、すかさず鏡を渡されました。「現場になじむことは取材の第一歩。うまくいった証拠でしょ」。真っ黒に日焼けし、ひげを伸ばし放題の自分の顔を眺めながら、ちょっと複雑な気持ちになりました。
(※)グリーンランドに住むイヌイット
「お婆さんの気遣い」
クルーズの人気エリアには、取材で何度も訪れます。ミコノス島Wの小さな村で取材先を探していると、前回取材した店を見つけました。店頭で機織りの実演をし、手作りのキルトWなどを販売している店です。
懐かしく思って中をのぞき込むと、見覚えのあるお婆さんと目が合いました。お婆さんもこちらを覚えていたらしく、懐かしそうな笑顔を向け、「お入り。今から始めるから、撮っていいよ」と言って、すぐに機を織り始めました。「今回は撮影の予定はないんだけど」とは言えず、とりあえずカメラを構えました。
前回で慣れたのか、お婆さんは、「こっちは良く見えるかい?」「この糸が大事なんだよ」などと解説を入れながら織り続けてくれます。次の取材先に行きたい気持ちが半分。再会を喜ぶお婆さんの心に応えたい気持ちが半分。ただただ時間が気になりました。