雑誌「クルーズ」に好評連載中の「世界の船旅」CRUISE誌上放映。
2014年1月27日発売の2014年3月号に掲載された内容をご紹介します。
「南米の怪談?」
南米には、日本に無い食べ物が多く、イキトスの街では市場を撮影ついでに珍しい果物を買ってみました。甘くておいしく、いくつでも食べられそうでした。
翌日はジャングル奥地を行くボートツアー。森の奥深くに入り、さまざまな珍しい動植物を撮影です。ところが昨日食べ過ぎたのか、途中からおなかが苦しくなってきました。目的地の村まで何とか我慢し、ボートが着くなり森の入り口にあるトイレに駆け込みました。
一息ついたとき、あることを思い出しました。ズボンの中までは、虫除けスプレーをしていなかったのです。すでにお尻はたっぷり蚊に刺されていて、クルーズ中かゆみが消えることはありませんでした。
帰国後、デスクに言われた言葉が「お尻にお経を書いとけば良かったのに」。思わず「耳なし芳一じゃありませんよ!」と、声を荒げてしまいました。
「風吹く港」
チュニジアのラグレット港に撮影を終えて戻ると、なにやら乗客たちが建物の陰から桟橋の様子を伺っていました。クルーに話を聞くと、風が強すぎて船に近づけないとのこと。確かにビュウビュウという音が聞こえ、やしの葉もちぎれそうです。建物から船のタラップまでのわずかな距離さえ、歩くのは危険なため、クルーたちは風が弱まったすきを見て「今だ!」と乗客たちを数人ずつ船へと誘導していたのです。
やがて自分たちの順番になり、駆け足で船に向かいました。弱まったとはいえ、時折吹く風は体を持っていかれるような強さ。うっかり足を滑らせるとタラップから転げ落ちそうです。クルーが体を張って風から守ってくれたおかげで、どうにか船に戻れました。
大型客船は波や風に強く安定した航海が自慢ですが、桁違いの突風には少々勝手が違ったようです。
「伝えることは難しきかな」
取材中、乗客の方と仲良くなると、「あそこの港はこれがおいしい」「あの寄港地ならあそこから撮れば良い」などと貴重な情報を頂くことがあります。時には「あの船はここがダメだから今度乗ったら言っといてよ」という難しい伝言を託されてしまうことも。
にっぽん丸で乗客の方に話を伺うと、やはり食事の話題が多く出てきました。一番人気は鹿児島湾をクルーズ中に出されたディナー。豚の焼酎煮の真ん中に桜島の噴火をイメージした揚げそうめんがそびえ立つという発想に驚かされました。
ところが、その驚きを映像にするのは、なかなか難しい。小鉢を上げたり下げたり、延々と眺めていると、乗客の方に「早く食べなさい。味はカメラじゃなくて舌で撮るのよ」と言われました。あまりに本質を突いたアドバイスです。あらためて旅慣れたクルーズファンの感性に感服しました。