雑誌「クルーズ」に好評連載中の「世界の船旅」CRUISE誌上放映。
2014年3月27日発売の2014年5月号に掲載された内容をご紹介します。
「これもまた旅の思い出」
ナポリに寄港した際、創業100年という高級ネクタイ店を取材。その丁寧な仕事ぶりと素材の良さにほれ込み、普段ネクタイを締める機会などあまりない身にとっては少々値が張りましたが、思い切って購入してみました。
ちょっとセレブな気分になって船に戻り、早速その日のディナーに新しいネクタイを締めていったのですが、好事魔多し。いつのまにか肉料理のソースをネクタイに落としていたのです。「あっ」と気付いてソースを拭き取っても時すでに遅く、ソースは生地の奥まで染み込んでいました。
「新品のネクタイが……」。ガックリと落ち込み、もはやディナーの味も分かりません。すると、それを見かねたのか同行のディレクターが「ちょっと付き合え」とバーに誘ってくれました。そして一言「順調なことだけじゃなく、その染みも船旅の大切な思い出じゃないか」と言って、一杯おごってくれました。
「再び乗りたくなる理由」
英語の話せるスタッフが乗船に遅れ、最初の2日間は一人で取材することに。今回は出航後に撮影が重なったため、船内を走り回り、身振り手振りで交渉し疲れ果てました。ディナーの席では、椅子に座ったまま眠ってしまいそうでした。
すると、一人でうなだれる姿を気遣ってか、隣の席のカナダ人乗客が「明日からこちらのテーブルで一緒に食べないか」と優しく声を掛けてくれたのです。見ず知らずの人の親切に、心癒やされた瞬間でした。
帰国後、「人々との出会いこそ、船旅の魅力ですよ」とデスクに話すと、「隣で落ち込まれたらご飯がおいしく食べられないでしょ。疲れを顔に出しちゃだめよ」と厳しい一言。しかしその夜、また同じことが起きて困ってしまわれぬよう、コーディネーターに電話して次の取材の乗船日時を何度も念押しするデスクの姿がありました。
「チーム対抗 ネパール語教室」
今回、別の国の撮影チームと少し張り合ってしまう出来事がありました。原因は、皆のマドンナのような存在の、あるネパール人女性クルー。いつしか、彼女とコミュニケーションをとるため、たくさんネパール語を覚えた方が勝ちという雰囲気になっていたのです。
ネパール人の男性クルーもいると分かり、両方の撮影チームがネパール語を教わるため彼のもとに通いつめました。簡単なあいさつから始まったネパール語教室は徐々に加熱していったのですが、ある日相手のチームが「あなたは可愛いですね」の言い方を尋ねると、彼は下心を見透かしたのか、「もう教えないよ」と笑って断られてしまいました。
おかげで双方とも熱が冷め、そのまま平穏に下船の日を迎えました。出口に並ぶネパール人2人に「ナマステ―」(ありがとう)とあいさつすると、満面の笑顔で見送ってくれました。