雑誌「クルーズ」に好評連載中の「世界の船旅」CRUISE誌上放映。
2014年7月27日発売の2014年7月号に掲載された内容をご紹介します。
船旅の目的は
船が桟橋を離れて湖の中ほどまで出ると、「たかが湖」と楽観していた気持ちが吹っ飛びました。五大湖の総面積は琵琶湖の360倍以上。湖に架かる橋、個性的な町など次々と撮りたいものが現れて、休む暇がありません。とにかく撮れるだけ撮ろうと船上でも寄港地でも走り回りました。
これだけ見どころが多いと、観光に出かけた乗客たちもさぞかし忙しいだろう、と心配していたのですが町の撮影から帰ると船内は妙に落ち着いています。クルーズ中よく見かける、出港時間ぎりぎりに戻ってきて焦る乗客の姿もありません。まさか誰も降りなかったの?と思っていると、ある乗客が教えてくれました。観光は午前中だけ。「午後は船でのんびりするんだよ」。
なるほど、船旅の目的はリラックスすること。全てを見尽くすように回るのは、彼らにとっては無粋なことなのです。気の持ちようが違うと、あらためて気付かされました。
山盛りの取材
今回はホテルマネージャーがとても熱心でした。「この施設は必ず」「ここもぜひ」と次々に撮影場所を勧めてきました。しかも「この時間で」とすごい勢いでスケジュールまで指定してきます。負けじとこちらの希望も伝えて打ち合わせを進めました。ところが船長のインタビューだけどうしても調整がつきません。日程表を見つめながら二人で考え込んでしまいました。
その時、ホテルマネージャーが「ここはどう?」と提案したのは、船が寄港中で、町を撮影する予定の時間。「町の取材があるからできるわけないでしょう!」と少し怒り気味に彼を見上げると、彼はとてもいたずらっぽい顔をしてほほ笑んでいました。
考えすぎて煮詰まっている私をリラックスさせるため、冗談を言ってくれたのです。一気に緊張がほぐれ、打ち合わせもロケも無事に終えることができました。
ヨットで結ぶ絆
この船には大型客船と違ってプールもシアターも巨大なレストランもありません。
当然、船内の撮影はあっという間に終わりました。が、今回はここからが本番。
ひとつの家族で借り切っているので、「今日はあそこに行きたい」というわがままに船長はすぐ応えてくれます。ところがこれが取材班には大変なこと。例えば、急にダイビングをするとなると水中カメラを準備しなければならないし、見知らぬ島に立ち寄ることになれば、家族の行動を追いかけながら、船がきれいに撮れるポジションを探さなければならない。いつもの3倍くらい、臨機応変な対応が必要でした。
しかし、自由気ままに船旅を謳歌する家族の姿にいつしか共感を覚えていたのでしょうか。最終日、全員が夕日に向かって手を合わせ、先祖に感謝する姿を見てその絆の深さに思わず目頭が熱くなりました。