雑誌「クルーズ」に好評連載中の「世界の船旅」CRUISE誌上放映。
2014年11月27日発売の2015年1月号に掲載された内容をご紹介します。
「最新リバークルーズ体験! 海と川と陸を贅沢に楽しむ 北イタリア 美と芸術の旅」
ビーチの歓声
イタリアのベローナでのことです。古代ローマの遺跡や、中世の街並みが残る歴史あるこの街は、シェークスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』の舞台として知られています。街にはジュリエットのモデルといわれた女性の家も残っています。
その家にあるジュリエットの像に触ると恋愛運が上がるといわれており、女性たちが長蛇の列を作っていました。像に触った後で、そばにある金網にピンク色の南京錠をかけるのが願掛けの手順らしく、金網には無数の錠前がかけられ、全体がピンク色に染まっていました。恋する乙女たちの熱い情熱に驚かされました。
しかし、一番驚いたのは船に戻ってからのこと。ある人が「シェークスピアがこの地を訪れた事実は確認されていないんだよね」と教えてくれたのです。行ったこともない場所を愛の聖地に変えてしまうなんて……。文豪の筆力に脱帽しました。
「赤毛のアン」が愛した世界 アメリカ・カナダクルーズ
腹心の友はいずこ
取材したのはかなり前でしたが、編集を始めるころには『赤毛のアン』の翻訳者が主人公の連続ドラマが始まり、主人公と学友との熱い友情模様などが話題に。『赤毛のアン』ブームが起こっていました。
事務所のスタッフも「アンのクルーズ、期待しているよ」「まだできないの?」などと余計なプレッシャーをかけてきます。あまりに言われるので、ドラマにも出てきた『赤毛のアン』の台詞を引用してこう答えました。「何かを待つことは、その楽しい何かの半分にあ
たるんですよ。待ち焦がれるという楽しさをもう味わっているじゃないですか」。
われながらうまい切り返しと思っていると、「半分でこんなに楽しいなら、完成品はさぞかし面白いんだね」と見事に返され、プレッシャーが倍増。ああ、私を助けてくれる「腹心の友」はいないものか、と思わず心の中でつぶやきました。
「美しき伝説の帆船で巡る世界遺産 ギリシャ 地中海ロマン紀行!」
マージョリーの客室
「シークラウド」は80年以上の歴史を誇る帆船。今回は特別に、オーナーが愛する夫人・マージョリーのためにぜいを尽くして造らせたという客室を撮影できるので期待していました。
ところが乗船してみると、その客室には乗客が泊まっていたのです。通常、宿泊客がいる部屋は撮影できないので、「急な予約が入ったのかな」と諦めました。
しかし数日後、予定どおり見学会を行うと言われて向かうと、すでに大勢の乗客が「マージョリーの客室」で豪華な装飾に見入っていました。この客室に泊まっている乗客が、他の乗客のために一時開放してくれたのです。「船の歴史を伝えることは、この部屋に泊ま
る者の義務ですよ」とにこやかに答える姿に感動しました。そして、とてもきれいに片付いている客室を見て、荷物が散乱したままの自室を思い出し、とても恥ずかしくなったのでした。