雑誌「クルーズ」に好評連載中の「世界の船旅」CRUISE誌上放映。
2019年6月27日発売号に掲載された内容をご紹介します。
第309話 MSCメラビリア
人気のシチリア・マルセイユを巡る 地中海クルーズ
豊富なアクティビティーと専任のコンシェルジュなどの行き届いたサービスを誇り、カジュアルでありながら多彩な体 験ができる客船で、世界遺産の要塞都市バレッタやローマ、マルセイユなど、地中海の絶景と史跡をめぐります。
見上げてごらん船の中を
「メラビリア(不思議)」と名付けられたこの船は、乗り込んだ瞬間から夢のような空間が広がっていました。スワロフスキー・クリスタルが散りばめられた豪華なアトリウム、本物そっくりのF1シミュレーター、ほぼ真下に滑り落ちるウオータースライダーなど、大人も子供も夢中になれるアクティビティーを、楽しみながら撮影しました。その中で最も気になったのは、プロムナードでした。船のプロムナードというとさまざまなショップやレストランが並び、買い物やグルメが楽しめますが、 クルーズにおいては脇役になりがちです。しかし、この船はプロムナードの天井に洋上最長といわれる、全長 96 メートルの巨大なLEDのスクリーンを設置。
鮮やかな青空や夕焼け空、宮殿のアーチ型天井のような映像などを映し出し、非日常の雰囲気を演出してくれます。 中には、わざわざ天井の映像が変化する時間にプロムナード を訪れて愛を語り合う情熱的なカップルもいて、「船旅って船の外も中もロマンチックだな」と思った瞬間、独身のわが身が辛くなってきました。 帰国後、「あの船の取材は独身には辛いですね」とデスクに言うと、「そんなすてきな船にいつか恋人と一緒に乗ろうとは考えないの? それくらいの器量もないんじゃ恋人と船旅なんて程遠いわね」と冷たく言い放たれました。ロマンチックどころか厳し過ぎる現実を見つめることになったのでした。
第336話 アラヌイ5
地球最後の秘境! マルケサス諸島クルーズ
タヒチ島からマルケサス諸島まで1,500 キロメートルの旅。抜群の透明度を誇るサンゴ礁の海やフランス人画家ゴーギャンが愛した島々、ティキと呼ばれる守り 神の像が残る遺跡など、魅力あふれる南太平洋の秘境を船でめぐります。
「どすこい」と「どっこいしょ」
船と貨物船の機能を持つと聞いて武骨な船をイメージしていました。確かに船首には大型 のクレーンがそびえ立ち、スタッフは皆筋骨隆々。しかし船はプールやバーもあり、ラウンジは清潔でゆったり。ディナーは 本格的なフランス料理で他の船に引けを取りません。寄港地のツアーも個性的です。 乗客の人気を集めたのはウアフカ島のホースライディング。 森や山を西部劇のような気分で散策します。気持ちよく馬に揺られながら撮影を続け、美しい入江を望む山頂に到着したときの事です。馬を降りる際、思わず「どっこいしょ」と言ってしまったのです。 すぐにスタッフから「その日本語は聞いたことがない。どんな意味?」と質問が飛んできました。働きづめなのに疲れた様子を全く見せないスタッフに、 「どっこいしょ」はお年寄りが疲れたときに使う掛け声だと言うのは、ちょっと引け目を感じてためらってしまいました。 すると日本が大好きだという 乗客が、「どっこいしょ」はお相撲さんが気合を入れる時に使う言葉だ、とスタッフに説明し たのです。「それは『どすこい』 で、近いけどちょっと違う……」と訂正しようとしたのです が、「どっこいしょ」と「どす こい」の違いを英語で説明するのは難しく、中途半端な笑顔を返すしかありませんでした。 その後クルーズの間、「どすこい」と「どっこいしょ」が頭の中でせめぎ合っていました。